セルフトーク・マネジメントのすすめ [鈴木義幸]
ASIN : B00NL7AUU4
出版社 : 日本実業出版社
発売日 : 2008/5/1
オンデマンド (ペーパーバック) : 180ページ
寸法 : 12.7 x 1.14 x 19.05 cm
出版社 : 日本実業出版社
発売日 : 2008/5/1
オンデマンド (ペーパーバック) : 180ページ
寸法 : 12.7 x 1.14 x 19.05 cm

1 セルフトークとは何か
2 セルフトーク・マネジメントのための基礎知識
3 セルフトークを「変える」-ネガティブな感情から脱する方法
4 セルフトークを「使う」-行動を強化・修正する方法
5 セルフトークを「減らす」-集中力を高める方法
6 セルフトークを「なくす」-最高の実力を発揮する方法
7 セルフトーク・マネジメントで何が変わったか

感情や行動の引き金として、自分の中に生まれる言葉をセルフトークという。
セルフトークには、刺激によって自動的に生まれ「感情」を呼び起こし、
「反応」としての行動を導くセルフトークA(automatic)と、
自分の意思で生み出して「理性」を呼び起こし「対応」としての行動を
導くセルフトークB(bear)がある。
セルフトークを管理すること=セルフトーク・マネジメントが、
セルフコントロールのための最良の方法である。

①まず、自分がネガティブな状態にあること、
その状態の原因であるセルフトークAを認識する
②そして、そのセルフトークAをセルフトークBに置き換え、
理性による対応としての行動に戻す
これがセルフトークを「変える」プロセスになります。
セルフトークAが生まれたとき、心の中でどのような質問を
自分に投げかけるか、つまり、どんなセルフトークBを生み出すかで
セルフコントロールの成否が決まります。
私たちが肯定質問にこだわるのは、
肯定質問こそが未来を創る力をもつからです。
一方、否定質問は、対象だけでなく自分の未来をも否定する質問です。
現実を変える力をもつのは、
肯定質問、つまり肯定的なセルフトークです。
「この会議を建設的なものにするために、何ができるだろう?」
「会議自体は変えられないとしても、少なくとも自分がこの会議の時間中に
ストレスを感じないためには何ができるだろう?」
このようなセルフトークBが、自分はクリエイターであり
環境に働きかけていくことができるというスタンスを生みます。
そして、そのようなスタンスが肯定質問を生み出すという
好ましいサイクルをつくります。
否定質問は周囲の状況に「反応」しているにすぎないともいえます。
しかし、肯定質問は「対応」であり、適切な肯定質問ができれば、
環境という他者に対しても第三の可能性が広がるわけです。
また、肯定質問と否定質問の関係は
「自責の質問」と「他責の質問」の関係にも
そのまま置き換えることができます。
なぜなら「肯定」というスタンスは
「すべてが自分次第であるから」他者や環境すら
変えることができるという考え方であり、
「否定」というスタンスは「すべて他人のせいだから」
自分には何もできない、という考え方に他ならないからです。

悩むというのは、答えを手にしたいのに、その答えが手に入らず、
同じところをぐるぐると回っているような状態。
一方、考えるというのは、答えを探すのではなく、
答えに至る問いを自分の中で立てるプロセスだということです。
これをセルフトーク・マネジメントの視点でみれば、
悩むとはセルフトークAによる対象への「反応」であり、
セルフトークBを使い、考えることではじめて
「対応」しているということができます。
この二つの違いを知り、自分は今どちらの状態にいるのかを
意識するだけで、知的生産の効率は格段にアップします。
人は、得意な領域については意識的・無意識的に
さまざまな種類の問いを立て、考える(セルフトークBを使う)
ことができますが、不得意な領域については悩むこと
(セルフトークAに身を任せる)に終始してしまう。
問いを立てられないからこそ不得意になるともいえます。

ただ「考える」というだけでなく、セルフトークを「使って」
考えることのメリットは、それがセルフトークAとの対比で、
意識的に続けられやすいということです。
どの分野でも、一流の人は常に「自分はどうすべきか?」
「どうあるべきか?」という質問を創り続けていることを
心に留めておいていただければと思います。
ここで「逃げない」という言葉を使ったように、
自分の強さにスイッチを入れるセルフトークBを
いくつか用意しています。
たとえば講演の前には、セルフトークBを使い、
開演の五分前まで頭の中でその日のシミュレーションをしますが、
五分前になったらすっぱりと止めて、セルフトークを減らすこと
に注力します。
その際のスイッチは「Fearintopower」(恐れを力に)と決めており、
このセルフトークBを浮かべると集中モードに入る習性がついています。
ポイントは、いつ、どのような状況で、
どのセルフトークBを使うのかを事前に決めているということです。
このセルフトークBに力をもたせるためには、どんなときでも、
決めた場面・状況になった場合に、必ずそのセルフトークBを
/> 生み出すようにすることが重要です。

部長はいつも「無意識に」部下を斜めににらんでいたわけです。
それを「もっとかっこよく」とリクエストすることで、
部長の中にセルフトークBが生まれ「意識的に」
にらみを利かせることができるようになりました。
それによって、今まではコントロールの効かなかったにらみが、
コントロールできるものになったわけです。
結果として、人を斜めににらむことをやめるという選択肢も
選ぶことができるようになりました。
もし私が「優しい表情をしてください」と言っていたら、
表情をコントロールできないという気持ちがより強くなって、
表情を変えるということを諦めてしまっていたかもしれません。
今行なっていることを止めるのではなく、セルフトークBを使い、
もっと「うまく」することによって、クセや行動を自分でコントロール
できるようになるわけです。

ほとんどの状況において、セルフトークAは、
ただ消すのではなく、セルフトークBをつくり出し、
置き換えることで感情や行動を変えることになります。
つまり、セルフトークBに「変える」ことが、
生まれてしまったセルフトークAへの対処法としては一般的です。
しかし、就寝前などでセルフトークを「変えて」
行動を起こさなくてもよいときなどは、セルフトークを
「減らす」ことに専念してみてもよいでしょう。
生まれてしまったセルフトークAを消す方法とは、
まずシンプルに、セルフトークを認識することです。
セルフトークAがセルフトークAであるためには
(感情や行動を左右する力をもつためには)
無意識のものである必要があります。
意識し、言語化できたとき、セルフトークAは
解決すべき一つの課題にすぎなくなります。
私なりの理解ですが、座禅、内観、瞑想といった
自分の内側と向き合う行為の目的は、自分の中にある
無意識の言葉の存在に気づくこと、つまりセルフトークAを
認識し、減らしていくことだと考えています。

人が自分の実力を最大限に発揮できるのは、
おおむね誰か他の人のために行動する場合です。
自分のためだけに働くときのパフォーマンスは(ほかの条件が同じなら)
誰かのために働くときのパフォーマンスを確実に下回ります。
ですから、スピーチでもプレゼンでも
「みんなにいいところを見せたい」「できる人間だと思われたい」
というセルフトークAが生まれたら要注意です。
すぐに「主賓や出席者のためには何を伝えるのが役に立つか?」
「どう話せば、相手にこの商品のよさを理解してもらい、
相手の仕事をより快適にすることができるか?」と、
どのように相手に貢献できるかに焦点を変えてみることをおすすめします。

私が自分のスピーカーとしての成長を感じられたのは、
聞き手に期待することをやめられたときでした。
講演のコツは、聞き手に「媚びない、すりよらない、期待しない」
ことだと気がついたのです。

今でもそのやりとりを鮮明に覚えているのですが、
トレーナーが私たちの前でコーチングのデモンストレーションをしていて、
デモの相手役に対して非常に的確なフィードバックをし続けたのです。
聞くべきことを最高のタイミングで質問していく。
相手役の人間も本当の「気づき」を次々と与えられていく。
トレーナーの実力は目を見張るほど優れたものでした。
デモのあと、一人の参加者が、どうしてそんな的確な
フィードバックができるのかと尋ねたところ、彼は
「僕は日常に未完了が少ない」と答えました。
自分のエネルギーを消費する未完了―やり残したこと―が
少ないから、目の前の人がよく見えるし、
的確なフィードバックができるのだと。
彼の答えを今の私が補足するなら
「未完了はセルフトークAを生む」ということになると思います。
仕事のやり残し、家事の手抜き、言おうとして言えなかったこと
……自分では忘れているつもりでも、小さなトゲとなって
無意識のセルフトークAを発生させ、集中力を削いでいます。

感情を否定するな、というのは、無理に肯定しろということではありません。
はじめから感情をジャッジ(判定)しないようにすることが大切です。
これはよい感情、これは悪い感情とジャッジしてしまうと、
悪い感情のときにセルフトークAが生まれることになってしまいます。
「ああ、自分は今○○と感じている」とただ思う。
そうすれば、セルフトークAは増えることなく、
自然と少なくなっていくでしょう。

ゾーンとフローをセルフトークの観点で説明すれば、
次のようになるでしょうか。
・スポーツなど身体的な比重が大きい場合には、
意識からセルフトークAがなくなることで集中する
=ゾーンに入る
・頭脳的な比重が大きい場合には、
意識がセルフトークBで満たされ、
セルフトークAがなくなることで集中する
=フローに入る
私たちは映画や小説の登場人物(そしてそれを演じる俳優)に魅力を感じ、
ときには「○○のようになりたい」と憧れもしますが、これは、
多くのフィクションでは登場人物のセルフトークの揺らぎが
ほとんど描かれていないことにも理由があると考えています。
人は、自分の心の揺れを常に意識させられていますから、
その「揺れ」が存在しないかのように行動できる人物には
激しく心を惹かれます。
実際にセルフトークを「なくす」ことに関して、
一日の長があるのは、やはり武道を修めた人たちです。
そして、こちらがより重要だと思うのですが、
セルフトークがなくなっている彼らは「その時」を生きています。
ほかの目的、時間のために「その時」を過ごしていません。
剣道であれば、剣や竹刀に触れている時間そのものを、
最上の時間として楽しんでいます。私たち一般の人間が、
自在にセルフトークを「なくす」ためのポイントは、
この点にあると思います。

セルフトークを「減らした」うえで、
セルフトークを「なくす」ためにできることは多くありません。
というよりも、本質的なことはたった一つ
―結果や目的ではなくプロセスを重視すること―だけとなります。
「結果や目的ではなくプロセスを重視する」ことは、
さまざまなレベルで、いろいろなやり方で表現でき、
また、実現することができます。
テニスでいえば、たとえば、試合に勝とうとするのではなく、
よいスイングをすること、さらには強く振り抜くことを
重視するということです。
スピーチならば、感動させようと思うのではなく、
声を低くし、ゆっくりと話そうとすることです。
野球のバッティングであれば、ヒットを打とうとするのではなく、
強く打つこと、振り抜こうとすることになります。
ポイントは二つ。
行動をセルフトークが発生しないレベルにまで還元するということ。
しかし同時に、還元した行動(プロセス)は、そのものを結果や目的とし、
楽しめるものでなくてはならないということです。
プロセスの重視に次ぐ重要なポイントとして、
「時間を忘れる」「時間の流れる速さが変わる」という感覚があります。
これは、ゾーンやフローに入った人がもっとも共通して体験することらしく、
ほとんどの人が時間を通常よりも短く感じています。
この時間感覚の変化が、セルフトークをなくし
極限まで集中したことの結果なのか、
あるいはセルフトークがなくなることの条件なのかはわかりません。
しかし「時間を忘れる」感覚を先取りすることで、
ゾーンやフローに入りやすくなるというのが私の実感です。
ASIN : B00NL7AUU4
出版社 : 日本実業出版社
発売日 : 2008/5/1
オンデマンド (ペーパーバック) : 180ページ
寸法 : 12.7 x 1.14 x 19.05 cm
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オンデマンド (ペーパーバック) : 180ページ
寸法 : 12.7 x 1.14 x 19.05 cm

「セルフトーク」とは、言葉から連想できるとおり「自分の中での会話」です。
本書では、このセルフトークが人の感情や行動と密接に関係していることを示したのち、
セルフトークを通じて自分自身をコントロールする方法を、具体例を交えながら解説します。